「短編」
時々見えるそれ

時々見えるそれ7(最終話)

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 目を開けた瞬間、誠は自室の白い天井を見て落胆した。シングルベッドには日野が寝ていた形跡はなく、ソファーを見ても、大きな体は見当たらない。
 不思議な夢だった。ディテールまではっきりと覚えているような夢を見たのは何年振りだろうか。
 ベッドを出て洗面所に入り、鏡を見ると、何の変哲もない三十手前の顔が見える。
 日野の教育担当になって数か月。鏡に映るのは、可愛い後輩が一目惚れしてくれるような顔ではない。洗顔しながら、自分に都合の良い夢だったと改めて感じた。
 それにしても、なかなか凝った夢だった。自分のどこに逞しい想像力があったのだろうと思いつつ、身支度を整えた誠は自宅を出た。
 出勤してデスクに着くと、向かいの席には日野の姿があった。当然だが、黒い短髪に覆われた頭頂部付近に白い犬耳は無い。
 しかし、相変わらずいい男だ。
 がっしりと逞しい体つきに、強面ともとられかねない猛々しい容貌。好み通りの日野の教育担当を任されたときは、内心ガッツポーズを決めたものだ。
 今朝の夢のように、日野に好かれればどれほど幸せだろうか。毎日似たようなことを考えるけれど、ノンケだろう日野とどうこうなれるなんて思っていない。むしろ毎日目の保養をさせてもらえるだけ有り難いと思うことにしている。
 始業時間になり、誠は日野に覚えてほしい書類の処理方法があったことを思い出した。
 試しに日野の肩に触れてみよう。立ち上がったとき、ふとそんなことを考えた。
 夢では日野の頭に犬耳が生えた、声を掛けるついでに肩を軽くたたく、というのを、やってみたくなった。
 ちなみに、朝食時に相思相愛だと見えるケモミミについて調べてみたが、実例は見つからなかった。なので、この試みは日野の自分に対する好意とか、耳の存在を確認するためのものではない。ただ、自分には思った以上の想像力があったことを自分で面白がっているだけだ。
 ともかく仕事だ。誠は席を立ち、不意打ちになるよう大回りをして日野の背後に立った。
「日野君、この書類なんだけど」
 わざと夢を真似ているのにデジャビュもなにもないが、肩を叩くなんて内心ちょっと恥ずかしい。そんな先輩社員の出来心など知る由もない日野は、普段は絶対にされないボディータッチに驚いた様子で誠を振り返った。
 その途端、日野の頭からひょこっと耳が現れた。
 夢と同じ白い犬タイプの耳を見て、誠は心臓が止まりそうなほど驚愕した。
「みっ、耳」
「えっ」
 日野が咄嗟に押さえたのは頭頂部。日野にケモミミの自覚があると知った瞬間、誠は両想いかもしれない期待と夢の具体性と、他の誰にも見えていないかという心配と、その他諸々気になることを一瞬の間に脳内処理しようとして失敗した。
 立ち尽くす誠の前で、日野は赤面してしていた。
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